- 養液をうまくコントロールするコツはある?
- 水耕栽培ではなぜECとpHを使うの?養液管理の注意点は?
- ECとpHをうまくコントロールする方法は?
こんな疑問をお持ちではないでしょうか。

こんにちは!橘 葱太郎です。
水耕栽培を始めたばかりの方、または既に勉強中で、「EC」や「pH」に対して「何ソレ?」という方。
「EC」と「pH」は、水耕栽培に関わる全ての方が覚えるべき養液管理の指標です。
こちらの記事では専門用語はできるだけ使わずに、ECとpHの「なぜ」「何を」「どうやって」を解説します。本や他サイトの専門的な解説に疲れた方は、まずはこちらの記事から読み始めてみてください。
まず前提、栽培中の養液は状態が変化する


まず知っておく必要があるのは、水耕栽培で作物を育てている期間中は、養液の状態が少しずつ変化するということ。
これは当然のことで、作物が根から養液を吸収しているためです。



吸収されて減った分は追加するのかな
これはそうとも言えるのですが、そこまでシンプルではないところも。
まず、養液成分の分析をすることで養液成分の状態を知ることはできます。ただしこれは時間とコストがかかることで、養液の状態を把握するってのは意外と難しいのです。
ただ、難しいからと言って放ったらかしは良くなくて、養液成分が変化しすぎると野菜の生育に悪影響が出る場合も。
なので変化した養液の状態に合わせて都度対処してあげる必要があって、「どうやって養液の状態を判断するか」ってところがポイントになるわけです。
養液管理はECとpHを指標にしている
栽培がスタートすると日々観察をしていくことになるのが、
- 作物の状態
- 気温
- 湿度
- 養液の状態
といったところ。気温だと「○℃」、湿度だと「○%」ですよね。



養液の状態は何を見て判断したら良いの?
養液は、「EC」と「pH」を指標にします。
初めての方でも、どちらかというとpHは馴染みがあるでしょうか。
ECとpHを計測すると、養液の何がわかるの?というと以下のような感じ。それぞれ解説していきます。


【ECの解説】肥料濃度を把握するためにECを使う


栽培中の養液は、植物が吸ったり、水が気化したりと、溶け込んでいる肥料濃度が常に変化しています。なのでいつでも肥料濃度が適正であるように管理していくのが理想です。
で、ECは養液中に溶けている全イオン濃度を示す指標となってます。つまりECを計ることで肥料成分の濃度がわかるわけです。
ただ、ECはもともと「電気の流れやすさ」を表す指標のことでして、「電気伝導度」とも呼ばれています。



なぜ今、電気の話が出てくるの…?
はい、そうですよね。ではここからは、なぜ養液に「EC(電気伝導度)」が使われているのかを解説します。
ECを計ると養液の肥料濃度がわかる
養液には肥料を筆頭に、様々な物質が溶け込んでいます。
肥料は水に溶け込むと、水中でイオンの状態になります。これは、「電離」という現象で、イオン化した分子は電荷を帯びます。
そして電離してイオン化した物質は電流を運ぶ役割をするので、「イオン量が多い=電気が流れやすい」ということになるわけです。
ということは、養液の「電気の流れやすさ」を計測すれば、養液中の「イオン量」がわかるわけです。この「イオン量」は、肥料以外の成分も含めての「イオン量」です。
というのも、たとえ水道水であっても微量ですが様々な物質が溶け込んでいて、水道水のECを計測すると0にはならないんですよねー。井戸水などの水だと溶け込んでいる物質はもっと多いので、ECも高くなります。
なので実際には、「EC=肥料濃度」ではないのですが、ECを計測するとザックリと養液の肥料濃度がわかるってことですな。
ザックリした肥料濃度しかわからなくて起こる問題
養液中の肥料濃度をザックリと確認できるEC。



ザックリで大丈夫なの?
はい、そこは気になる部分ですね。結論としては、「栽培スタートからしばらくは大丈夫」です。
ECを用いて管理する循環型の水耕栽培では、養液が減ってくると水や肥料を継ぎ足して、長期間栽培を続けることが可能です。
ただし、長期間栽培を続けるうちに問題となるのは、各肥料成分のバランスが乱れてくる点。
植物ってのは品種や生育段階によって、吸収する肥料成分に違いがあります。栽培を続けているうちに、吸収されない成分だけ徐々に残っていく。という可能性もあります。
ECで確認できるのは、あくまでも養液中の「全てのイオン量」なわけで、個別の成分に関してはわからないわけです。
なので、長期間栽培を続ける場合は、定期的に成分バランスの分析をする必要があるんですよねー。まぁ家庭菜園レベルだと分析は不要ですが。
養液の全取替えをすると成分バランスはリセットできますので、養液は定期的に交換するのがおすすめ。
それでもEC管理で大丈夫な理由



養液の状態を正確に把握するわけじゃないんだね・・
いくつか問題はあれど、一般的にEC管理が使われている理由は簡単だし便利だから。プロの世界でも使われている手法です。
ECセンサーが1つあれば管理できますし、リアルタイムでも確認できちゃいます。いくつもの肥料成分を一つ一つ計測して管理するのは、すごく難しいんですよねー。
それに養液栽培では、いずれにしても一定期間で養液の全取替えは必須とされていて、その際に養液はリセットされます。
なので普段はEC管理だけでも「大きな問題は起きないでしょう」というわけ。
簡易的にECを計測する場合は以下のようなものでOKです。必ずしもリアルタイムで計測する必要はありません。ECセンサーは我が家の家庭菜園でも活躍しております。
水耕栽培をやるなら必須だろうと思います。センサーにしては安価な方ですので、1台は持っておくことをおすすめします。


養液のEC値はどうやって決めたら良いのか
さて、養液の肥料濃度をEC値で管理する理由を解説してきました。肝心なのは「じゃあEC値はいくつに設定したら良いの?」ってところ。
実は養液栽培の歴史の中で、「ベストなECはいくつ?」みたいな研究はいくつも行われています。
結果をまとめると、作物ごとに適したECはあるものの、作物の生育は他の生育環境からも大きな影響を受けるからECだけでは語れない。という感じです。
まぁつまり、「いつでもこのEC値がベスト!」ってのは無いってわけです。養液処方の成分バランスと同様に、作物の生育を見ながら決めていくしかないんでしょうねー。
ちなみに肥料成分のバランスについては、こちらの記事でも解説しています。


ECの高低によって、作物の生育にどのような影響があるのか
生育にとっての「ベストなEC」は無いとはいえ、一般的には以下のようなことが言われています。
ECが低すぎる
- 養分が足りずに生育が遅れ、肥料欠乏の生理障害が出やすい。
ECが高すぎる
- 浸透圧が上昇し、根から養水分が吸収しにくい。生育が遅れる。
ただ私の経験上、ECが低くても高くても、生育にはさほど影響ない気がします…。根の周りに水流があって、肥料成分の粒子が根に接触できていれば、濃度はそんなに重要じゃないかな。という感じ。
もし養液に水流が無い場合、根から養液が吸収されると、根の周囲のイオン濃度が大きく下がることがわかっています。
なので濃度よりは、むしろ根の周囲に常に水流があるかどうか、って方が重要だったりします。もちろん過度に高すぎる・低すぎるECはダメですよー。
というわけで、適正値から多少上下するくらいは問題ありません。葉物野菜を栽培する場合なら、1~3 mS/cmくらいにしておけば問題なかろうと思います。
【pHの解説】pHが酸やアルカリに大きく傾くと、根から養液を吸収できなくなる


pHは日常生活でも使われる指標なので、ECよりも馴染みがありますよね。酸性かアルカリ性かを示す指標です。
正確には水素イオン【H+】の濃度を示すものとなってます。
このpHも養液管理とは関係性が深くて、ECと同様に常に適正値であることが理想です。というのもpHが作物の適正値から大きく外れると、根から正常に養液を吸収できなくなるためです。
それではpHが養液や植物にどういった影響を及ぼすのかを解説していきます。
pHによって溶けている肥料の状態が変化する
pHによって直接的に変化するのが、養液に溶けている肥料の状態です。
例えば、pHが高まると以下のようなことが起こります。
- 養液中のリンの形態が【H2PO4^-】→【HPO4^2-】に変化する
- リンとカルシウムが結合して沈殿しやすくなる
- 鉄が沈殿する
と、こんな感じです。
変化したリン【HPO4^2-】の形態では、植物がリンを吸収しにくくなると言われています。
他2つについても、沈殿を起こすと植物がイオンとして吸収できなくなります。(植物は水に溶けた状態のイオンしか吸収できないため)。
pHが低くなったときも同様に、吸収しにくくなったり、逆に吸収しすぎたり、肥料成分ごとにそんな影響が起こります。
というわけで、pHによって養液に溶けている肥料の状態が変化するわけです。つまり、間接的にpHが植物の肥料吸収量に関わってくるというわけですな。
適正なpHはどれくらいか
高すぎても低すぎても悪影響なpHですが、じゃあ「丁度よいのはいくつなの?」って話です。
いずれの肥料成分も植物が有効利用しやすい範囲にしようとすると、pH:5.0~5.5あたりが良いと言われています。
ただし、ここは作物にもよりけりで、一概には言えないところ。
栽培中にpHが変化する理由
さて、pH:5.0~5.5の範囲が良いわけなのですが、pHは栽培期間中に徐々に変化してしまいます。
栽培がスタートする時に養液のpHがどれくらいかと言うと、作成直後はだいたい弱酸性(6前後)になります。これは、肥料に含まれるリン酸アンモニウム【NH4H2PO4】や、リン酸カリウム【KH2PO4】が酸性であるため。
で、時間を経ると少しずつpHが変化していきます。主要因は、植物が吸収する陽イオンと陰イオンの量に差があるからです。
一般的に広く使われている養液処方で栽培すると、phは徐々に上昇するケースが多いんじゃないかと思います。そこはまぁ肥料組成にもよるわけですが。
ちなみにpHを計測する際は以下のようなセンサーを使います。
家庭菜園だと、あると便利だけど無くても大丈夫かな、という感じ。養液の交換も定期的にしますしねー。私も家庭菜園では使っておりません。


植物が吸収する窒素の偏りによってpHは急激に変動する
pHが変動するのは、植物が吸収する陽イオンと陰イオンの偏りによるもの。というのは上記の通り。
その変動が急激に起こるケースが、アンモニアイオンを吸収する時です。
どういうことかと言うと、まず植物の肥料として使う窒素には主に2種類あります。
- アンモニアイオン【NH4+】
- 硝酸イオン【NO3-】
それぞれ陽イオンと陰イオンなわけですが、両方の窒素が与えられた場合、多くの植物はアンモニアイオンから優先して吸収します。
私の経験的にも、肥料にアンモニアイオンを含めるとすぐに吸収されて、肥料成分の分析でも検出不可となることが多いです。
で、話を戻します。アンモニアイオンだけが優先吸収されることで、養液中の陽イオンと陰イオンに偏りが出るわけですな。
それがpHの変化として現れるわけです。しかもこの場合、植物は養液のアンモニアイオンを吸い尽くすまで吸収し続けるので、急激にpHが変動するというわけです。
アンモニアイオンが吸収されると養液が酸性に傾く
アンモニアイオンの優先吸収が起きた場合、pHは酸性に傾きます。
植物が陽イオンであるアンモニアイオン【NH4+】を吸収すると、その代わりに根から水素イオン【H+】を放出します。
pHとは「水素イオンの濃度」のことでした。養液中の水素イオン【H+】の量が増えることになるので、pHが酸性に傾くというわけです。
変化したpHを修正する方法.1:施肥設計を変えてみる
ここまでpHが変動する要因を解説してきました。作物を育てる我々にとって大事なのは、「pHをどうやって修正するか」ってところですな。
pHには上昇と下降、どちらの要因もあるわけですが、肥料成分を調整することでpHのコントロールが可能です。
例えば、栽培中に徐々にpHが上昇していくケース。
そんな時は窒素肥料の成分バランスを変えてみると良いかもしれません。アンモニアの比率が増えることによって酸性になりやすいというのは前述した通りです。
ただし、養液更新直後に作成する肥料にはアンモニアを加えない、もしくは加えても少量にしておくべきです。
多量のアンモニア態窒素によって、急激にpHが変動するというのは解説したとおりです。
そのため、栽培をスタートさせる際の養液にはアンモニアを少なくし、追肥分の肥料組成ではアンモニア態窒素を増やすと安定します。
変化したpHを修正する方法.2:pH調整剤を使う
pH修正のさらに手っ取り早い方法は、pH調整剤を使うというもの。直接、酸やアルカリを養液に加えちゃおう!というわけですな。
簡単な方法なのですが、以下のようなリスクもあります。
- 投入直後にpHが急激に変化するので、何かしらの元素が沈殿する可能性がある
- 投入した成分が増えるので、養液全体でみた肥料バランスが乱れる
と、こんな感じのリスク有りです。このあたりのリスクも踏まえて使用をするのが良いかと思います。
私としては、肥料組成を工夫して無理なくバランスを取る方法をおすすめしておきます。配合肥料の場合は細かい成分バランス調整ができないため、pH調整は難しかったりします。
ここまで肥料の調整方法も含めて解説してきましたが、ヤサマガではオリジナルの肥料計算ツールを公開しています。
おすすめ処方も公開してまして、そちらの処方ですとpHの変動も少なくて済むかと思います。気になる方はこちらの記事も参考にどうぞ。


まとめ
最後までご覧いただき感謝です。
この記事では、「養液管理の指標となるECやpHとは」から、「なぜECやpHを使うか」「どうやって管理するか」といった内容を解説してきました。
養液管理を勉強中の方はぜひ参考に!
ヤサマガでは、水耕栽培に関する知識や技術を発信しております。他の記事もぜひ参考にどうぞ。
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