- 養液として使う水って、どんな水でも使えるの?
- 肥料成分を計算するときの考え方が知りたい
- 単肥配合ってどういうもの?やり方は?
こんな疑問をお持ちではないでしょうか。

こんにちは!橘 葱太郎です。
今回の記事は、養液栽培で使う「原水」と「単肥配合」がテーマです。養液栽培で使用できる水には条件があって、水質によっては使えない場合も…。
先に結論を一つ言うと、水道水は問題なしです。
他には井戸水、雨水あたりも選択肢の一つ。これらは水質次第って感じなのですが、有害物質を含んでいる、金属イオンが多すぎる、みたいな水質だと養液として使うのは難しいかも。
ただ、肥料バランスの調整で何とかなることもあって、今回はそのあたりの考え方を解説していきます。
実際にどう計算するのよ?ってところを先に知りたい方は、ヤサマガオリジナルの計算ツールもありまして、こちらの記事から無料でダウンロードできます。


単肥肥料の話はどちらかというとプロの方向けです。でも計算ツール自体は家庭菜園でも使えます!
養液栽培に適した水質の条件


まずは原水の種類ごとの特色を解説していきます。が、その前に養液栽培に適した水質の条件を整理しておきます。
ちなみに水質が適していない場合に、水質改善をする方法もあって、
- フィルターでろ過
- 不要な成分を沈殿させて取り除く
とかです。
ただ水質改善は、必要な水量にもよりますが、大型の設備だとコスト・手間がかかるしで大変なんですよねー。
もし水道水が使えるのなら使ってしまうのが良いかもです。
適している水質は以下のようなものです。一つずつ見ていきましょう。
- 過剰に多い成分が含まれていない
- 病原菌や有害物質を含まず、浮遊物や微生物が少ない
- 長期間安定して、質・量ともに確保できる
過剰に多い成分が含まれていない
まずたとえ水道水であっても、様々な成分が微量ながら含まれています。その中には植物の肥料として使われる成分も含まれます。
水道水の場合は微量なので、養液とする際に影響は無いのですが、ほかの原水だと成分が過剰に含まれているケースも。



もともと肥料が含まれているならお得じゃん
って思いますよね。
それも一理あって、足りない分だけ補えば、養液としては成立します。難しい点が、「植物が成長しやすい肥料成分のバランスが概ね決まっている」ってこと。
つまり、特定の成分だけが多すぎるケースでは、バランスが悪くて成長の障害となりえるわけです。
肥料成分の不足分を補うにはどうするか
不足している肥料成分のみを補うには、単肥肥料を使います。肥料には単肥肥料と配合肥料があって、それぞれの特徴は以下のような感じ。
単肥肥料
- 単体の化合物(硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、など)を自分でバランスを調整して養液とする。
配合肥料
- 丁度よいバランスで配合されたものが販売されている。(ただし、それが作物にとってベストな配合とは限らない)
で、もともと原水に何かしらの成分が含まれていたら、足りない成分を単肥肥料で補ってあげると良いわけですな。
逆に成分が多すぎる場合、取り除くのはけっこう難しくて、養液を作るための水としては不向きかもしれません。
そして配合肥料だと、加える必要のない成分まで一緒に加わってしまうことも。つまり、水質によっては配合肥料が使えないケースがあるんですよねー。
原水によっては成分が過剰に含まれるケースがある
というわけで、成分が過剰でないかってのが、養液に使える水を判断するポイントの1つ目。
水道水の場合だと、各自治体での水質検査が行われています。そのため水質が安定していて問題は起こりにくいです。
一方、他の農業原水、井戸水、雨水なんかは、地域によって水質に違いがあります。有害物質や過剰な微生物が含まれているケースもあるので注意しなくちゃいけません。
というわけで、使用する前には水質を確認する必要があるってことですな。
病原菌や有害物質を含まず、浮遊物や微生物が少ない
病原菌や有害物質が多い原水も使えません。作物が病気になってしまうリスクがありますし、そもそも育てた作物は食べられるのか…?。って話です。
そして、藻も含む各種微生物が多すぎる原水もよくないです。微生物は養液中で酸素を吸収するのですが、微生物に吸われすぎると作物が吸う分の酸素が足りなくなることも。
ちなみに鉄やマンガンも水中の酸素を消費しますので、含有量が多すぎると酸素不足の要因になります。
植物は葉だけでなく根からも酸素を吸収するので、酸素が足りないと酸欠になってしまうんですよねー。
長期間安定して、質・量ともに確保できる
栽培途中で水が無くなると栽培が成立しないわけで、水は1年を通じて安定的に確保できる必要があります。
必要量は栽培する作物によって違いがあって、果菜類だと葉菜類よりも水の吸収量が多いです。養液が循環式か非循環式かによっても、水の使用量に差があります。
そして、水は養液として使う以外に、清掃や備品の洗浄にもたくさん使うってことも注意。
養液栽培で使われる原水の種類


養液栽培で使われる原水の特徴を、種類ごとに整理しておきます。
水道水
水道水は、病原菌が多いとか、何かしらの成分が過剰、みたいなことがないです。なので、養液栽培には一番使いやすいかと。
ただし注意点も。通常、水道は殺菌のために塩素消毒されているのですが、
残留塩素は、肥料成分のアンモニアと結合すると、クロラミンという化合物となります。
クロラミンは植物の根にダメージを与えます。対処法として、水道から出した直後の水は使わず、2日~3日ほど置くと塩素は抜けます。
でも養液の全更新をした後とか、すぐに使わなきゃいけない場合もありますよね。その場合はカルキ抜きを添加すると、塩素は瞬時に中和されます。(チオ硫酸ナトリウムだと、水1tあたり2.5gくらい)
井戸水
井戸水は、場所によって含まれる成分濃度が大きく違います。平均すると金属系の元素が溶け出していることが多いです。そして、海の近くだとナトリウムや塩素が多くなるといった特徴があります。水温は季節によって変化が少ないので、その点では使いやすいですな。
雨水
平均してもともと含まれる成分濃度が低いです。なので、成分濃度の観点からすると養液は作りやすいってことですな。
一見養液栽培向きっぽいですが、雨水の場合は確保できる水量が変動するのがマイナスポイントです。もし使うなら、他の原水も並行して使えることが前提となりますね。
単肥肥料の考え方と使い方


ここまで養液を作るための「水」の話でした。
ここからは単肥肥料の話に移ります。
この単肥肥料の話、養液栽培を学ぶうえで「よくわからんランキング」ってのがあったら多分上位に入り込むでしょう。
化学的な知識も必要となるので、初心者だと理解するのに時間がかかるんですよねぇ…。かくいう私も日々勉強中です。では話を戻して、一部にややこしい計算式とかも使いながら解説していきます。
しかしその前に、肥料計算に対するヤサマガ的なスタンスを示しておきますと、「ザックリした計算でも植物は育つ」です(笑)



でも知識はあって困ることはないよー
そして冒頭にも記載しましたが、単肥の計算って実際にどうやるの?って方は、ヤサマガオリジナルの計算ツールも用意していますので、こちらの記事もどうぞ。
ここから先で解説しているような、面倒な計算の理屈を覚えなくても肥料が作れてしまいます。


微量元素の考え方
ではまずは、微量元素の話からスタートします。微量元素はその名の通り、各成分の必要量が微量です。単肥を使って一つ一つの元素を計量して処方に加えても良いのですが、正直面倒くさいです。
そのため、微量元素は単肥を使わず、微量元素だけで配合された「配合肥料」を使うのがおすすめ。



細かくバランス調整した方が、生育にはプラスじゃないの?
って声が聞こえてきそうですが、私は問題を感じたことはありません。何せいずれにしても「微量」ですしねぇ。微量元素も生育には重要なのですが、細かいバランスはそこまで…という感じです。
ただし、微量元素の中でも鉄には注意が必要です。
鉄には沈殿しやすい特性があって、一度沈殿すると再び溶けることは難しく、そうなると植物が吸収できなくなってしまいます。そのため、鉄だけ別で添加するのも良いんじゃないかと。
つまり、使うのは、
鉄+他の微量元素の配合肥料
という感じ。
ちなみに鉄はキレート化された、「キレート鉄(Fe-EDTA)」っていうのが沈殿しにくく、植物の吸収量が増えます。
肥料として販売されているものは、大体このキレート鉄だと思います。さらに安定度が高いFe-DTPA、Fe-EDDHAってのもあります。価格もちょっとお高いけど…。
しかしそれも面倒くさいというかたは、微量要素全てが含まれた配合肥料が存在していて、そちらの方が手に入りやすいかもしれません。
多量元素を計算するときの考え方
さて単肥配合の解説は、「微量元素は単肥を使うな」って話からスタートしたわけですが、ここからは多量元素の話です。
多量元素の単肥肥料を使うときの考え方を解説していきます。
でもその前に、前提知識として知っておくべき事柄がいくつかあって、こんな感じ。
- 使う単位はme/L(エムイーパーリットル)
- 養液に電気量が関係していて、単位にme/Lを使う理由
- 肥料の量は、イオン量に換算する必要がある
それぞれ解説していきます。
使う単位はme/L(エムイーパーリットル)
はい、おそらく大多数の方は目にしたことがないであろう単位、【me/L】です。
小学校~高校でも習わない気がします。たしか。
養液管理ではこの単位を使います。
me/Lってのは一言でいうと、「水に溶けている肥料成分量(イオン量)に電気量(価数)を掛けたもの」です。



どういうことだってばよ
これだけだとよくわかりませんね。
つまり、価数の高いイオンがたくさん溶け込んでいると、me/Lは高くなるということ。なのですが、解説していきます。
養液に電気量が関係していて、単位にme/Lを使う理由
さて、急に「me/L」と「電気量(価数)」という馴染みのないワードが出てきました。ではなぜ、養液管理に電気量が関係してくるのか。それは、
- 植物が肥料を吸収する仕組み
- 養液管理のやり方
の2つの面から、電気量を使うことの都合が良いからなんですよね。
まず前提として、
- 植物はイオンの形となっている肥料成分しか吸収できない
- 養液管理をする際には「EC」を確認して養液の状態を把握する
という2つのポイントがあります。
どういうことかというと、
という感じで、養液管理の世界では、意外と電気に関わる事柄が多かったりします。なので肥料成分の濃度も、電気量を踏まえた単位で扱う方が好都合というわけなのです。
よくわからない場合は、とりあえず盲目的に「養液管理にはme/lとECを使う」と覚えて次にいきましょう。
使う肥料の量は、イオン量に換算する必要がある
次は電気量とはまた別の話。こちらは肥料の保証成分の話になります。
肥料は使う量を計算して作成するわけですが、その際の計算では肥料成分の量を各成分のイオン量に換算する必要があります。
どういうことかというと、まずポイントとなるのは、
ってところ。
例えば肥料の容器には、リンだと「PO4 ○○%」みたいな感じで書かれています。リン(P)ではなくて「リン酸(PO4)」なわけですな。「%」とは全体量に対しての「リン酸」の含有比率ということです。
でも、実際に作物が吸収する成分はイオンなので、「肥料は○○kg、イオンで換算すると○○me/l」という計算が必要なんですよねー。
買ってきた肥料の容器に書いている数値は、そのままでは単肥の計算に使えないってわけです。
単肥肥料を計算する流れ


微量元素、多量元素の考え方や前提知識をいくつか紹介したところで、ここからは実際に計算する際の流れを解説します。
目標とする成分バランスを決めて、施肥設計する
肥料の計算をする手順は、まず成分バランスを決めます。
本来は「作物の生育がよくなる成分バランス」を目指して養液を作るべきなのでしょうが、初めのうちは広く使われている処方を参考にするのが良いかと。
園試処方とか山崎処方ですね。
そして栽培を継続していく中で、生育をチェックしつつ少しずつバランスを変えていく。そうすることでベストな施肥設計を作っていけます。
例えば、園試処方の成分バランスは、【 N:16、P:4、K:8、Ca:8、Mg:4 】となってます。※単位はすべてme/L
この濃度となるように、投入する肥料の量を調整していくってわけですね。
ちなみに私の経験から、葉物野菜であれば既存の処方よりもNやKが多め、Caが少なめでも良いかなと思います。
オススメの処方は「ヤサマガ式処方」として公開しておりますので、こちらの記事もどうぞ。


目標の設計となるように肥料の使用量を決める
では肝心なポイント、肥料使用量の具体的な計算方法を解説します。主に使う肥料は以下の4種類です。
- 硝酸カルシウム【Ca(NO3)2・4H2O】
- 硝酸カリウム【KNO3】
- リン酸2水素アンモニウム【NH4H2PO4】
- 硫酸マグネシウム【MgSO4・7H2O】
基本的にはこの4種類を組み合わせて、全体の成分バランスを調整します。
どうしても望んだバランスに調整できない場合、他の肥料も使用できますが、何種類もの肥料をストックしておくのは現実的ではないです。
なので、できる限り上記4種類で対応するのが良いと思います。他にはリン酸2水素カリウムも使って5種類でも良いかもです。
硝酸カルシウムを例にして肥料使用量を計算してみる
それでは実際の計算手順です。
園試処方のバランスで、カルシウムの量を調整する場合を例にして解説します。
要するに、
カルシウムの量を8me/Lにするには、肥料を何グラム使えばいいか
っていう計算をするわけですな。手順はこんな感じ。
そうすると計算式は…
※水1リットルに対しての量
この計算式はカルシウム以外の肥料にも当てはまります。それぞれの成分に対して計算をして、設計通りとなる肥料の種類と量を決めていくわけです。
対になっているイオンも同時に入る
上の例を計算してみると、園試処方で硝酸カルシウムの必要量は、944mg/Lになります。
で、ここでポイントとなるのが、
硝酸カルシウムは、カルシウムと硝酸が結合している
ってところ。
カルシウムを8me/L投入すると、同時に硝酸も8me/L投入されるってわけです。園試処方での硝酸(N)の必要量は、16me/Lなので、残り8me/Lを硝酸カルシウム以外の肥料で補うことになります。
他に使えるのは硝酸カリウム【KNO3】ですね。硝酸カルシウムと同様に計算すると、硝酸カルシウムの必要量は、808mg/Lってことがわかります。
とまぁこんな感じで、処方に合わせて成分量を計算し、肥料の投入量を決めていくわけです。園試処方を例にして解説しましたが、もちろん処方自体を独自に決めてしまってもOK。
計算式まで書いて解説したけど、計算はザックリしてても大丈夫
と、ややこしい計算式まで使って解説をしてきました。ただ最後に、身も蓋もない一言を付け足してしまいます。



計算はザックリしてても、作物の生育にはそんなに影響ないかも・・・
実際に、養液の成分バランスによって生育に差がなかったという研究もあったりします。
ヤサマガ的には、まず投入する肥料の量を決め打ちしてしまって、その量から算出した成分バランスだけ把握しておけば十分と考えております。
その成分バランスが一般的に知られている処方とおおよそ同じであれば、多少バランスが違っていても全く問題なく作物は育ってくれます。
細かい成分バランスの調整よりも、pHやECが安定しているかとか、そういったことの方が大事だったりします。
そのあたりの管理ポイントについては、ヤサマガ内の別の記事でも紹介していますので、そちらもどうぞ。


まとめ
最後までご覧いただき感謝です。
この記事では、「養液栽培に使う原水」「原水成分を踏まえた養液の調整」や「単肥肥料の考え方」を解説してきました。
養液栽培を始める際にはぜひ参考にしてみてください。
ヤサマガでは、水耕栽培に関する知識や技術を発信しております。他の記事もぜひ参考にどうぞ。
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