- 植物は水や肥料をどうやって吸収しているの?
- なぜ吸収の仕組みを知る必要があるの?
- 作物の栄養価を高める方法はある?
こんな疑問をお持ちではないでしょうか。

こんにちは!橘 葱太郎です。
私たちは水耕栽培で植物を育てるとき、水や肥料を「養液」として植物へ与えます。
でも植物がどのように根から養液を吸収しているか、ってところまでご存知でしょうか。
水耕栽培のスキルを身につけると、その吸収メカニズムを利用して野菜の品質をコントロールする。なんてこともできちゃいます。
そこで今回の記事では、植物が根から水や肥料を吸収する仕組みを解説していきます。
まず前提、植物が「水」と「養分」を吸収する仕組みは異なる


植物は水と養分のどちらも根から吸収します。水耕栽培の場合だと、水に肥料成分を溶け込ませた養液を吸収するわけです。



じゃあ水と一緒に養分を吸収してるんだね
いや、実はそれが違うんですよね。
なんとなく、養液に溶け込んだ肥料成分を水分と一緒に吸収してそうな気がしますが、水と養分を吸収する仕組みは別物です。


この吸収方法の違いを活かした栽培方法もありまして、知っておくことで野菜に含まれる栄養価をコントロールすることも不可能ではありません。
野菜を育てる際に、吸収メカニズムを覚えておいて損は無いわけです。
水耕栽培の場合、水と養分の吸収メカニズムの違いを知っておくべし
水と養分の吸収メカニズムが同じだろうと別だろうとどっちでも良いじゃんと思われそうですが、水耕栽培の場合は意外と大事なことなのです。
水耕栽培の場合、水と養分を養液として与えるわけですが、養液は土と比べて肥料濃度や成分バランスのコントロールがしやすいという特徴があります。つまり吸収の仕組みを理解していれば、水分・養分のどちらかを多めに吸収させる。みたいな技も使えてしまうわけです。



どちらかだけ多めに吸収させてって・・何が目的なのよ?
はい、そこが重要なところです。
例えば世の中には、「糖度を高くしたトマト」ってものが存在しています。
あれは養液濃度を調整し、植物内に含まれる水分量をコントロールする技術によって可能となります。水分の吸収を抑えてトマト内部の水分量を減らす栽培方法なわけですな。
そんな感じで、野菜の味や品質をコントロールすることも可能なんですよねー。よく「高付加価値野菜」と呼ばれる野菜は、このような手法で栽培されています。
ちなみに水耕栽培で管理する養液濃度の指標である「EC」については、このあたりの記事でも解説しております。


肥料成分は水に溶けてイオン化している
水耕栽培では、肥料を水に溶かした養液を用いて野菜を育てます。このとき養液中の肥料成分は水に溶けてイオンの状態になっています。
イオンっていうのは、原子や分子が電荷を帯びている状態のことです。
で、植物はこのような水に溶けてイオン化している肥料成分しか吸収できません。つまり水に溶けていない粉体の肥料なんかは、どうやっても吸収できないわけです。
まぁこれは水耕だけでなく土耕の場合も同じでして、土耕の場合だと土壌の成分が土の中の水分に溶け出し、植物はそれを吸収するわけですな。
それでは根の周囲に「水」と「養分」が存在している時、それぞれをどうやって吸収するのか、ってところの本題を解説していきます。
水分を吸収できるのは浸透圧によるもの


まずは水分を吸収する仕組みから解説します。
植物が根から水分を吸収する仕組みは、「浸透圧」を利用しています。



浸透ってどういうこと?
浸透ってのはシンプルに言いますと、水分を通す膜を挟んで膜の反対側に水分が染み出すことです。その際に水分が移動する圧力を「浸透圧」といいます。
膜の両側で濃度が同じになろうとする作用が働いて、濃度が薄い液体から濃い液体へ水分が移動するわけです。
膜って何ぞや?という話ですが、植物で言い換えます。
植物細胞は水分を通す「細胞膜」に覆われておりまして、細胞膜では浸透作用によって水分が通過します。
「水分が移動する現象」ですので、植物としては水分を吸収するための方法として使ってるということなんですよねー。周囲の水分が根の細胞内部に浸透してくることによって吸収しているわけです。


塩漬けと同じ!濃度の薄い方から濃い方へと水分が移動する
身近にある別の例でも、この浸透の現象を説明してみます。
じつは塩漬けなどの漬物ができるのも浸透の作用によるものなのです。
漬物が長期間保存可能なのは、内部の水分量を減らして腐敗の原因となる微生物の増殖を抑えているためです。つまり、野菜の内部から水分を取り除いているわけですな。



内部から水分を取り除く…?
つまり植物内部の水分を外部へと絞り出す感じです。それをどうやるかというと、「浸透」を利用してるってことになります。
塩漬けにすると、塩分によって外部の濃度が高い状態となります。そうすると、食品内部(濃度が低い)から外部(濃度が高い)へと水分がしみ出てくるというわけです。
水耕栽培だと、養液濃度が高すぎる(塩漬け状態)と水分を吸収できない
話を戻しまして水耕栽培では、養液濃度が高い状態は塩漬けと似たような状態といえます。養液濃度が高すぎるとどうなるかというと、植物は浸透を利用して根から水分を吸収できなくなるわけですな。
吸収できないだけでなく、濃度が「根の細胞内部<養液」になるので、水分は根内部から養液の方へと移動します。
つまり塩漬けにされているのと同じ状態でして、植物は体内の水分を失ってしまうということです。
養液濃度のコントロールが上手くできないと、結果的に枯れてしまうこともあります。塩分濃度の高い地域や海水などで植物が育てられないのはこれが原因です。
そして逆に言うと、「植物が水を吸収したい」場合は、濃度差が塩漬けの逆であれば良いわけです。
つまり「根の細胞>養液」の濃度差であることで、養液から根の細胞内部へと水分が移動するということです。
糖度が高いトマトの栽培方法は、塩漬け状態にすること
で、ちなみに「水分を通す膜」と書いちゃってますが、何ぞや?ですよね。
このような膜は半透膜と呼ばれるもので、植物の細胞もこの半透膜の性質を持っています。ということは細胞内の濃度が濃ければ、細胞外部から水が浸透してくるというわけです。


逆に細胞外部の濃度が高い場合、つまり「養液濃度>細胞内部の濃度」の場合にどうなるかというと、塩漬け状態になって枯れてしまうというのは解説したとおり。
ただし、植物にはそんな状態を防御する機能も備わっています。
水分流出を防ぐためには、細胞内部の濃度が養液よりも高くなれば良いわけです。そのために細胞内部の濃度を高めようとするんですよねー。
細胞内部の水分比率が減って凝縮された状態です。
「糖度が高いトマト」は、このような現象を利用して栽培されているというわけです。
そのかわり水分ストレスがかかるため、あまり大きくならないといった副作用もあるんですけどね。
養分を吸収する仕組みは水分とは違う


水分を吸収する仕組みは浸透圧を利用したものでした。ここからは養分を吸収する仕組みを解説します。



養分も水分と一緒に吸収してるんじゃないの?
これが違っておりまして、養分と水分はそれぞれ別ルートで吸収されます。水に溶けた養分が水分と一緒に植物体内に入りこむわけではないってことですな。
まぁ植物体内へ別々に入っても、植物体内では再び合流して水に溶けている状態となるわけですが。
で、養分がどのように植物内部に入るのかという話に戻ります。
水分は細胞膜から浸透することで植物内部へ入りこむということでした。
養分の場合は、水分と同じルートで入ろうにも分子のサイズが大きすぎて細胞膜を通過できません。というわけで、養分は水分とは異なるルートで吸収されることになります。


吸収したいイオンだけを取り込む仕組みがある
で、養分はどのような方法で吸収されるかというと、養分が根の細胞膜を通り抜けるには大きく分けて2つルートがあります。
- それぞれの成分専用のルートを自然に通り抜けて吸収(受動的)
- 植物が吸収したい成分を捕まえて吸収(能動的でエネルギーを使う)
水分を吸収する方法と違って、植物が養分を吸収する際には必要な成分だけを選択して吸収するような感じなんですよねー。
必要な成分を選択的に吸収するために、成分ごとのルートが作られておりまして、イオンチャネルとかイオントランスポーターと呼ばれております。


まぁ呼び方がどうか、ってのは置いておきまして、養分の通るルートは限られているってところがポイントとなります。
一つの成分でルートを占拠してしまうと、他の成分が通れない。なんてことも起こってしまうんですよねー。
肥料成分の拮抗作用と相乗作用
肥料成分には、他の成分の吸収を邪魔したり・助けたりすることがあって「相互作用」と呼ばれています。
そういったことが起こる要因はいくつかあるのですが、そのうち一つが先程解説した養分の通るルートが限られるってところ。
例えば、カリウム・カルシウム・マグネシウムなどの陽イオンが通るルートには、カリウムを優先して通す特徴があります。そのため、カリウムが多く存在する場合には、カルシウムやマグネシウムが通りにくくなります。
また、カルシウムやマグネシウムは性質が近いので競争関係にあり、どちらかが多いときにはもう片方の吸収を邪魔します。
実際に、カリウム、カルシウム、マグネシウムはそれぞれ拮抗関係にあるとされていて、いずれかの成分が多いと他の成分の吸収を邪魔してしまうんですよねー。
逆に吸収を助ける作用もあるわけですが、いくつもある成分の詳しいメカニズムまでは覚えなくとも、多量要素の相関関係は確認しておくと良きです。


作物の栄養価をコントロールする手順


作物の栄養価をコントロール。じゃあ具体的にどうやるの?って話ですよね。
基本的な手法としては、通常の収穫時期まではフツーに育ててあげる必要があります。
これはなぜかというと、作物の品質をコントロールするような特殊な栽培方法は植物にとっては非常にストレスがかかることです。
栽培初期から栽培方法を大きく変えてしまうと、植物は正常に育たなくなってしまうのです。
というわけで栽培条件を変更するのは、収穫前の時期1週間くらいが目安です。通常の栽培期間よりも、追加で日数がかかってしまうというわけです。



高付加価値化にはコストがかかります
この時期だけ養液の濃度を高くしたり低くしたりすると、作物へかかるストレスによって色々な変化が現れます。
含有成分や形状が変化することで、作物を食べる我々にとって価値が高まることもあり得るわけです。もちろん副作用的な変化もあり得るんですけどねー。
このあたりの話は以前にもブログ内で紹介しております。こちらの記事は収穫前だけ養液を水に変えてみた、といった実験ですのでご参考にどうぞ。


まとめ:根からの吸収メカニズムを知ると、栽培のコントロールが可能
最後までご覧いただき感謝です。
この記事では、「水分や養分の吸収メカニズム」を知って栽培に活かすことで、「作物の栄養価もコントロールできる」といったことを解説してきました。
野菜を栽培するにあたって、根からどのように水分や養分を吸収しているか、ってところは知っておいて損はないかと思います。知っておくと野菜の品質をコントロールするような特殊な栽培方法を行うこともできます。
実際に水耕栽培の現場では、養液濃度を制御することで野菜の出来をコントロールしよう。ってことが試みられてるんですよねー。
ぜひ参考にしてみてください。
ヤサマガでは、水耕栽培に関する知識や技術を発信しております。他の記事もぜひ参考にどうぞ。
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