【塩ビ管の水耕栽培は鉛を蓄積する説】実際に野菜を分析してみた

当ブログでは水耕栽培の情報を発信しておりまして、塩ビ管を用いた水耕栽培についても紹介したことがあります。

塩ビ管は扱いやすく安価ということで、水耕栽培界隈では割とポピュラーな素材です。

ところがネット上では、塩ビ管に含まれる鉛が養液中に溶け出し、栽培している作物を汚染してしまうんじゃないの?みたいなことが言われたりしております。

しかし情報が少ないために真偽がハッキリわからないのが現状。

とはいえ気になる。というわけで我が家にて実際に塩ビ管の水耕栽培を行いまして、収穫した野菜の成分分析をしてみました。

ですので本記事では、

  • 現段階でわかる塩ビ管水耕による鉛汚染リスク
  • 我が家の水耕栽培設備で育てた野菜の分析結果(鉛含有量)
  • そもそも鉛の問題って?

について解説します。

目次

なぜ塩ビ管水耕で鉛が問題になるかもしれないのか

そもそも今回、塩ビ管水耕で鉛の検証を行った理由は、「養液中に塩ビ管の鉛が溶出するのでは?」という疑いをネットで見かけて気になったため。

もしそうなると栽培した野菜にも鉛が多く吸収される可能性がありますし、もっとよく知りたかったというわけ。

というのも、ネット上で調べても結局塩ビ管水耕に問題はあるの?ないの?という疑問がハッキリわからないんですよねー。

塩ビに関しては塩ビ忌避なイメージのため、不正確な情報が出回ることもあるようです。確かに環境に悪そうなイメージはありますし、今回のような話題が広まるのも確証バイアスのような心理的影響もあると思われます。

てなわけで、できるだけフラットな目線で調べたいわけですが、疑問な点は下記です。

  1. 塩ビ管で養液を循環させると鉛が溶出する?どれくらい?
  2. 鉛濃度の高い養液で栽培した野菜は鉛の含有量が多くなる?
  3. 食事にどれくらいの鉛が含まれていると問題になる?

1.塩ビ管で養液を循環させると鉛が溶出する?どれくらい?

まず塩ビ管は大きくVP管とVU管に分類できます。VP管は厚肉で圧力のかかる水道用など、VU管は薄肉で排水用などと使い分けられています。

そのうちVU管の方には安定剤として鉛が含まれていて、その鉛が養液を循環させることで溶出しちゃうのでは?という説があるんですよねー。

これに関して調べたところ、まず水耕養液で鉛の溶出を検証した記録は見つかりませんでした。ですが、水への溶出を検証したものはいくつか存在し、それによると確かに鉛の溶出が発生するようです。

ただし、「どれくらいの量が?」ってのと、水ではなく養液を循環した場合にどうなるかはハッキリわからず。その部分は置いといて、いったん下記のような理解をしました。

  • 塩ビ管と水が接触して24時間で微量ながら鉛が検出される。その後も鉛は溶出を続け、水を交換しないと一定濃度で残留する。
  • 水を交換しても再び鉛は検出されるが濃度は下がっていく。何度も水を交換すると検出されなくなる。(24時間に一度の交換を3週間続けると検出されなくなる)
  • 水の交換による鉛検出濃度の減少が、水と接触している「期間」なのか、水の「交換回数」によるものなのかは不明。

2.鉛濃度の高い養液で栽培した野菜は鉛の含有量が多くなるの?

では次の疑問。鉛濃度の高い養液で栽培した野菜は鉛の含有量が多くなるの?です。

この点に関しては、有鉛ガソリンが使われていた当時は道路沿いで栽培された野菜の鉛汚染が問題となることもあったようです。

現在は状況が変わり、大気中の鉛汚染はほぼ無いわけです。なので気になるのは、根周囲に鉛が多い環境で育つと野菜は鉛を吸収するの?ってところ。

ただこれも研究例が少なく、養液の鉛濃度と野菜への影響はハッキリとわからずです。この点についてもわかったことだけ整理しておくと、

  • 土壌中(養液中)の鉛濃度が上昇すると野菜の鉛含有量が増えるが、ほとんどが根に蓄積される。
  • 地上部(葉)でも微量な鉛が検出されるが、大気からの沈着由来が大半であるよう。(大気中の鉛濃度が減ると、葉から検出される鉛濃度も減る)

と、こんな感じ。

重金属と農作物の影響を調べた研究は古いものが多くて、特に大気中の鉛濃度が高かった1970年代以前の研究は大気中の鉛が野菜表面に沈着していた影響が大きそう。

とはいえ根に鉛が蓄積するのは確かであり、根菜には注意が必要かもしれません。まぁそもそも塩ビ管水耕で根菜を育てるのは難しいので関係無いかもですが。

3.野菜の鉛含有量がどれくらいだと問題か?

そして3つ目の疑問。実際のところ野菜の鉛含有量がどれくらいだと問題か?です。

はい、例に漏れず、この点に関しても研究が少ないためにハッキリわからずでした。

というのも、そもそも鉛摂取量の影響に関する研究では一貫した結果がみられず、現時点だと「有害となる血中鉛濃度はこれくらい!」ってことを割り出すのは困難とされているよう。

日本だと平均的な血中鉛濃度は、1μg/dLかそれ以下程と考えられています。

いくつかの研究から、もしかしたら何らかの影響があるかも?とされている血中鉛濃度が1~2μgなので、現代の鉛摂取量は特に問題ないってことなのでしょう。

ちなみに以前は子供や妊婦で4μg/dL、成人で10μg/dLとされていたよう。まぁこれもハッキリわからないんでしょうね。

で、話を野菜の含有量に戻します。

ハッキリしたことはわからないまでも、実際に日本で手に入る野菜の鉛濃度を調査した記録は存在し、農林水産省によるとほとんどが定量限界未満(0.01~0.05 mg/kg未満)とのこと。

とりあえず野菜の含有量は、「0.05 mg/kg」のラインを参考にするしかなさそう。まぁ普段口にする野菜の含有量がそれくらいとのことなので。

塩ビ管水耕設備で栽培した野菜を成分分析に出してみた

冒頭からここまで、「ハッキリわからん」ってな話が多すぎなんだよなぁ・・・。というわけで実際にやってみよう!となりました。

今回検証に用いたのは、我が家の窓際に設置したこちらの水耕設備。

室内の窓際に設置した塩ビ管の水耕栽培装置

ホームセンターで購入した「VU40」の塩ビ管を使用してDIYしました。

分析費用と合わせてなかなかの出費。懐が寒くなって泣ける。

塩ビ管水耕栽培装置で育った野菜

この設備で野菜が育つとこんな感じ。

今回はこのうち1kgほど収穫して分析のため発送しました。

ダンボールに詰められて成分分析のために発送される野菜たち

検証の栽培はできるだけ悪条件となるように

ちなみに今回栽培で使用した塩ビ管は、一度も通水せずに使用しました(水が触れたのは塩ビ管に穴を開けた際に飛び散った粉を洗ったくらい)。

栽培期間中も一度も養液を交換しておらず、水と肥料を継ぎ足したのみとなります。

上述したように、塩ビ管から溶出する鉛は水と接触後24時間以内に溶出し始めて、そのまま残留することがわかっています(ただし養液でも同様かは不明)。

鉛が養液中に溶出するとしたら、わかっている範囲で最も悪条件な塩ビ管の使い方です

塩ビ管水耕栽培で栽培した野菜の鉛含有量の分析結果

分析は日本食品分析センターさんへ依頼しました。通常は法人を対象にしているそうですが、引き受けていただき感謝です。

結果としては下記。A4用紙の「分析試験成績書」で結果を郵送してくれました。

塩ビ管水耕栽培で育てた野菜の鉛成分分析結果
結果

検出せず

定量下限

0.05ppm

というわけで「我が家の塩ビ管水耕栽培の野菜から鉛は検出せず」でした。厳密に言うと「検出せず」は「0」の意味ではないですが、ほぼ0に近いということですな。

農水省の情報による「日本で手に入る野菜は、ほとんどが定量限界未満(0.01~0.05 mg/kg未満)」と同程度であったと思われます。

まぁあくまでも我が家でDIYした水耕設備で栽培した結果なわけですが。

成分分析の結論:塩ビ管水耕設備で栽培した野菜の鉛による心配は無さそう

というわけで結論です。今回の分析結果から、

「日本で手に入る野菜」と、「塩ビ管水耕設備で育てた野菜」の鉛含有量に差は無さそう。なことがわかりました。

というわけなので、塩ビ管水耕栽培装置で育てた野菜には鉛含有の心配はなさそうです。(スーパーで買う野菜と同じレベル)

それ以外の懸念としては、養液が野菜に付着するケースでしょうか。まぁ表面に付着してるだけなら洗えば落とせますな。

そもそも家庭菜園で水耕栽培をやる場合、全く水を交換しないってことは無いでしょうし、我が家の場合は養液を循環し続けるにしても最大で2~3ヶ月くらいです。

それくらいの頻度で養液を交換していれば、何度か繰り返すと鉛の溶出はほぼ無くなっていくと思われます。

ちなみにこれは、塩ビ管に水が浸透するわけではなく溶出する鉛は極表層に付着しているものだけであるためのようです。

まぁ仮に野菜に含まれる鉛の含有量が「0」でなかったとしても、そもそも我々は普段の生活においても鉛を少量ながら摂取し続けているわけです。

最後にそのあたりも少し解説します。

鉛はヒトにとって有害だけど、誰もが毎日少しずつ体内に取り込んでいる

まず前提として、鉛は自然界にも普通に存在しますが、大量に摂取すると有害であるとされています。

鉛を食物などから過剰に摂取してしまい、体外への排出が追い付かない場合に慢性鉛中毒ってことになるわけですが、症状としては、疲労、睡眠不足、便秘などがあり、摂取量が増えるに連れ、腹痛、貧血、神経炎などの影響があるようです。

とはいえ鉛はそこら中に存在していて、空気、ハウスダスト、水道水、といったものにも微量ながら含まれるため、誰しもが常に体内に取り入れ続けているというわけ。

日常的に摂取してしまう鉛の量は、年々減少している

日常的に体内に取り入れられている鉛ですが、過去には環境汚染によって摂取量が多くなってしまう時代がありました。

では具体的にどれくらいの摂取量なのかというと、例えば食事由来の摂取量だと1970年代は推定で100μg/日以上でした。

それ以降は減少しており、近年では2~9μg/日とされています。

50年ほどで10分の1以下に減少していることがわかるのですが、調査数も調査規模も少ないこともあって結果にはバラツキがあります。

ただ、近年にかけて鉛摂取量が激減しているのは間違いなさそうな感じ。

1975年の有鉛ガソリンの使用禁止や、1996年以降の排ガス除去装置の改善により、大気中への外出量が減少したことが要因である模様。

ちなみに摂取した鉛がすべて吸収されるわけではないですが、実際に体内から検出される血中鉛濃度も近年では低下しています。

体内に摂取される鉛は何に由来するものが多いのか

鉛はそこら中に存在しているということで、体内へと摂取されるルートがいくつも考えられます。

とはいえこのあたりも調査結果にバラツキが見られるところ。

食事由来の摂取が多いんじゃないか?といった調査もある一方で、ハウスダスト由来が多いという調査もあります。

ハウスダスト由来の鉛が多いというのは意外な感じもしますが、ハウスダスト1kgあたり約50mgの鉛が含まれるという調査があります。

野菜の地上部(葉)から検出される鉛も大気由来が大半っぽいですし、大気やチリ・ホコリからの影響は無視できなさそう。

ちなみに子供からの検出量が多い傾向にあるようなので、ハウスダストが口に入ってしまうんだろうなーと思われます。

まとめ:本記事の内容も参考に各自で判断してもらいたい

というわけで、ここまでの記事では下記のことを解説してきました。

  • 現段階でわかる塩ビ管水耕による鉛汚染リスク
  • 我が家の水耕栽培設備で育てた野菜の分析結果(鉛含有量)
  • そもそも鉛の問題って?

今回取り上げた内容は、話題的にもバイアスの影響を受けやすいと思われます。

私の本業は水耕栽培の生産者なわけですが(排水用の塩ビ管は使って無いので関係ないのですが)、立場的には「問題ない」な結論に至りやすいはず。

実際に色々と情報を調べた結果「問題無さそうかな?」な結論だったので、成分分析までして確かめてみたというわけです。

そうすると分析結果も問題無しでしたので、自分の中では納得。

栽培する品種とか、養液自体の鉛濃度はどうかとか、不明点は残りますが個人でやるにはこのあたりが関の山。

最終的な判断は各個人のものと思いますが、本記事が読者の皆さんの一助になれば幸いです。

もっと情報が必要ですか??

こちらの本も読んでみませんか?Kindle Unlimited対象なので、読み放題です。

『最高の体調』鈴木祐 (著)
科学の裏付けがあるアイデアを自ら試し続け、人生を改善させてきた鈴木祐さんの本。
知識の幅広すぎ、そして深すぎ。

Amazon Kindle Unlimitedとは…?

Kindle電子書籍が月額980円で読み放題になるサービス。幅広いジャンルから好きなだけ読めます。
読める本の数は『200万冊以上!!』
とんでもない数なので、情報がほしい時にKindleで検索すればほぼヒットします。
スマホさえあれば本が読めるのでオススメです。

初回30日間 無料体験

ヤサマガでは、『 野菜 × 健康 』をコンセプトに生活改善の情報を発信しています。他の記事もぜひ参考にどうぞ。

この記事が気に入ったら
フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次