- 養液栽培は、土を使った栽培と何が違うの?
- 養液栽培にはどんな種類がある?
- メリット・デメリットは?
こんな疑問をお持ちではないでしょうか。

こんにちは!橘 葱太郎です。
ヤサマガは「水耕栽培」について発信しているブログですが、今回の記事は「養液栽培」について。
この「水耕栽培」と「養液栽培」、一般的に同じような意味で使われることが多いです。厳密には定義が違いますが。
こちらの記事を読むと、養液栽培の全体像をザーッと確認していけます。
養液栽培とは土を使わない栽培方法


養液栽培とは、土を使わない栽培方法のこと。ちなみに養液栽培と比較して、従来の土を使う栽培方法のことは土耕栽培といいます。
養液栽培では土を使わないため、作物に必要な養水分は養液(水に肥料を溶かしたもの)として与えます。
養液栽培は近年非常に注目されていて、植物工場のような大規模に農業を行う企業でも採用されています。土が必要ないということは、工場のような室内でも栽培できてしまうということですな。
我が家でも家庭菜園として水耕栽培装置が稼働しています。これもいわゆる養液栽培の一つです。こちらの記事も合わせてどうぞ。


土を使わず、養液で栽培するメリット3選
養液栽培のメリットはたくさんありますが、生産者歴10年以上の私が考えるメリット3選は下記。
- 土を使わないので衛生的
- 野菜の管理や作業が簡単で楽
- 収穫量が比較的多く、栽培が安定する
土=固体、養液=液体なわけですが、この違いはすごく大きいです。作物を栽培をしていく上での扱いやすさが全然違います。
例えば肥料を使う場合、養液は液体であるため肥料が簡単に広範囲に拡散します。どんなに広い栽培面積があったとしても、養液タンクの中に肥料を入れるだけで作物全体へ行き渡るわけです。
これが土耕栽培だとそうはいきませんよね。畑全体へ肥料を使うのと比較して労力が少なくて済みます。
養液の中に肥料濃度を測るセンサーを入れておくだけで、作物が肥料を吸い上げた量をリアルタイムで確認できます。肥料が減ってきたら自動的に追加するような仕組みを作ることも可能なわけです。



えっ養液栽培ってめっちゃイージーなのですか…?
シンプルに「誰でも簡単に」とは言えず、栽培にそれなりの知識も必要となりますが、従来の栽培方法より管理がしやすいことは間違いありません。
そしてヤサマガでは養液栽培の手法のなかでも、特に「水耕栽培」推しであります。
土を使わず養液栽培をするデメリット(課題点)
さて、イージーそうに見える養液栽培ですが、土を使わないことで色々と工夫が必要になる面も。例えば…
- 根への酸素供給をどうするか(土だと細かい粒子の隙間に空気を含んでいる)
- 植物を水中に浮かべることは出来ないため、何かで支える必要がある
- 養液や培地のEC、pH、水温管理が必要
- 雑菌が水中で過剰に繁殖する可能性
って感じで、土ではなく養液を使うことによって課題が色々出てくるんですよねー。
まぁ近年ではどれも解決されてきています。
課題が解決できるのであれば、土よりメリットがある養液栽培をやらない手はない!ということで近年注目されていて、栽培設備としての採用が増えているってわけです。
とはいえ私が思うデメリット1位は、やはり初期コストがかかるところかなー。土耕と比べるとコストがかかりがち…。
養液は循環させて与えるのが主流
土を使わないことによる課題があったわけですが、それをなんとか解決しようとしてきたのが養液栽培の歴史と言えます。
で、一口に養液栽培と言っても種類がいくつかありまして、それぞれ栽培手法が異なります。ここから先は種類ごとに栽培手法を解説していきます。まず、大きい分類として循環式と非循環式の解説から。
循環式 | 非循環式 | |
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養液の供給方法 | ベッドとタンクの間を循環 | 水槽内で貯める かけ流し |
メリット | 肥料を継ぎ足して長期間栽培可能 設備を大規模化しやすい | 小規模な設備でも栽培可能 |
デメリット | 設備全体で病気が蔓延するリスク | 廃棄される養液量が多い |
使用システムの例 | DFT NFT | 固形培地耕 水槽やビンなど容器での栽培 |
循環式システムの特徴
循環式とは、養液に流れをつけて根に与えるもので、ポンプを使ってタンクや栽培ベッドに養液を流す方法です。これによって、養液中の酸素量を確保したり、根の周りに水流を作れたりするわけです。
大型植物工場でも基幹技術として使われていて、養液栽培では循環式が主流です。
養液が循環することによって管理がしやすくなり、設備の大型化も可能になるんですよねー。
養液栽培のメリットをフルに活かせるのが循環式であるので、ヤサマガとしても推しの栽培手法です。
非循環式システムの特徴
一方で非循環式の場合は、栽培初期に水槽に養液を貯めて、収穫終了までそのままという感じ。もしくは養液かけ流しのスタイル。
というわけで、養液中の酸素が足りなくなったり、根の周りの水流が無いために成長が遅くなったりしがちです。まぁ非循環式であっても、「養液を交換」して新しくすることは可能ですがね。
そしてかなり小規模でもできちゃうので、ペットボトルとかコップなどの容器でも栽培可能です。小学校の授業でやるヒヤシンスの球根とか、これですよね。(今も学校でやるんでしょうかね~?)
あとは吸水シートを使って、毛細管現象を利用して養液を供給するといった変わり種もあります。
なお非循環式では、栽培が終わると基本的に全ての養液が廃棄されます。この養液廃棄が環境汚染に繋がるということで近年では避けられがち。
なので、非循環式は徐々に循環式に移行しつつあるみたいですな。
養液栽培にはどんな種類があるの?
記事内で紹介しているものを図にしてみると以下のような感じです。


養液栽培のシステムは細かく分けると種類がいくつもあって、さらにシステム業者によっても仕様が違うしで、なかなか分類が難しいカオス状態となっております。
というわけで、ここではメジャーなものだけ紹介していきます。
水耕栽培(循環式)


水耕栽培は養液中に根を漬けて栽培する方法です。なので、養液を貯めておける栽培槽(ベッド)を使います。
さらに肥料や水量を調節するための養液タンクが別にあって、ポンプを使ってベッドー養液タンク間で養液を循環させるシステムが多いです。
ちなみに循環させない非循環な栽培方法であっても、分類としては水耕栽培です。
そして循環式の水耕栽培の中で、さらにNFTとDFTという区別をします。
NFT
- 根の環境が5mm~10mmくらいの浅い養液中にある。
DFT
- 根が10mm以上の深さの養液中にある。根がヒラヒラ漂ってる状態。
水耕栽培では養液中に根を漬けて栽培する
循環式では、養液に緩やかな水流がある場合が多いです。ベッド内が一定量の養液で満たされつつ、ゆっくり流れて循環している感じですな。
根はその中をヒラヒラと漂っているか、一部空気中に露出しつつ養液に浸かっている状態です。
植物が養液から肥料成分を吸収することが水耕栽培の特徴です。
水耕栽培ではタンク内の養液が減ってきたら肥料と水を補充する
循環式水耕栽培の場合だと、ポンプを用いてベッド内へ常に一定量の養液を送り込んでいますので、ベッド内の水量は一定に保たれています。
とはいえ植物が養液を吸収したり、水分が自然に蒸発しますので、少しずつ養液の水量が減っていくことに。
ベッド内へはポンプで養液を送り続けているわけですので、養液タンクの方の水位が減っていくことになります。(ベッド内の水位はオーバーフローさせる配管の高さで維持されるので)
なので、タンク内の養液量が減ってきたら肥料と水を補充してあげる必要があるんですよねー。
ちなみにこれが大規模な設備になると、以下のような自動化設備を導入している場合もあります。
- 養液タンクに水位センサーを設置する
-
- 時間とともに消費した水量が把握できるので、センサーで弁を制御しておけば自動で給水することが可能。
- 養液タンクに肥料濃度を計測するためのセンサーを設置
-
- 肥料を濃縮させた原液を用意しておけば、減った分の肥料を自動供給することが可能。
循環式の場合、養液タンクに水と肥料が供給されることで、流れに乗ってベッドの方へも次第に拡散されていきます。
ちなみに養液タンクを設置せず、栽培ベッドの一つをタンク代わりとして使用するタンクレスな設備も存在します。
水耕栽培のメリットとデメリット
養液栽培の他の種類の栽培方法と比較して、水耕栽培のメリット・デメリットは下記。
メリット
- 養液管理が比較的簡単にできるため、大規模な設備を作りやすい
デメリット
- 必要な養液量が多く、巨大なタンクが必要
- ポンプを動かし続けるため電力を消費する
- 植物に病気が発生すると、循環した養液に乗って他の植物へ伝染しやすい
と、まぁこんな感じで大きめな設備に向いてます。
でも家庭菜園の場合にも水耕栽培は全然アリです。私の場合は室内で水耕栽培をやっておりますが、お世話の手間もかからないのでオススメです。
水耕栽培で野菜を育てている方、ヤサマガではオリジナルの肥料計算ツールを配布しています。こちらの記事も参考にどうぞ。おすすめの養液処方も公開中です。


噴霧耕


噴霧耕は、根を空中で成長させる方法です。エアロポニックスとも呼ばれています。
養液タンクやポンプを使って養液を循環させるシステムで、その部分は循環式の水耕栽培と同じです。でも必要な養液量は噴霧耕の方がずっと少なくて済みます。
そして一番の大きな違いは、養液は霧状にして根に吹きかける(噴霧)ってところです。



霧でも育てられるの?
噴霧耕は霧だけで育っちゃうんですよねー。まぁ水耕栽培の時点で「水だけで育つの?」って感じですが。
噴霧耕の面白いところは、根が霧に適した発育をするという点。土の中や水の中で育てた根とは異なる特徴の根が育っていきます。このあたりをもう少し解説していきます。



植物の神秘!
噴霧耕では根に霧状の養液を噴霧して栽培する
噴霧耕では根が空中に浮いているので、その根に向かって霧状にした養液を吹きかけて栽培します。
植物をこのように栽培すると、水耕と比べて根の量が多くなる傾向があります。根が養液に浸かっている水耕よりも養液を吸収できる機会が少ないため、根の量を増やしてカバーしてるってことですな。
まぁ根が大きくなるってことは、植物が育つためのエネルギーを根に分配しているということなので、必ずしも良い状態とは限らないわけですが。
ただ、光合成速度が増加して、作物の糖度が増加するといった効果も見られるようです。
養液から霧を作り出すにはどうするのか
ポンプで養液を送り込むことで霧状にし、噴霧することのできる「ノズル」が存在します。
そのようなノズルを根の周囲に設置します。
噴霧する養液量や水滴の大きさには調節が必要で、水量が多すぎたり水滴が大きすぎると養液に根が浸かっているのと同じような状態となってしまいます。逆に水量が少なすぎると水分が不足することに。
植物が乾燥しすぎないまでも、程よくストレスのかかる乾燥度合いが良きです。ストレスがかかることによって、根が増量したり、糖度が向上したりするわけなんですよねー。
なので、「水滴の大きさ」や「水量」を「噴霧時間(間欠運転)」と合わせて決める必要があるわけですな。
噴霧耕のメリットとデメリット
養液栽培の他の種類の栽培方法と比較して、噴霧耕のメリット・デメリットは下記。
メリット
- 養液量が少なくて済む
- 根が空中にあるので、根へ十分に酸素が供給できる
デメリット
- 千切れた根とかゴミで噴霧ノズルが詰まりやすい
固形培地耕(ロックウール)


まず、固形培地ってのは根を支えるための栽培資材です。ロックウールという人工的に固められた鉱物繊維がよく使われます。
この固形培地ってのがまた種類が多くて、無機培地系、有機培地系ってのに分類でき、さらにその下にいくつか種類が…という感じ。
例によって一つずつの解説は省きますが、栽培方法に合わせて使う培地が選定されるわけです。ここではロックウールを使った場合の解説をしていきます。
ちなみに鉱物繊維というと、ロックウールとアスベストが混同されがちですが、全く違うものです。ロックウールに発がん性は無いです。しかし、粉末が飛び散るのでむせる…。



マスク推奨…!
タンク内で養液が管理されるのは、固形培地耕も水耕も同じ
タンク内に肥料や水量を計測するセンサーが設置され、減ると自動供給できるのは循環式の水耕栽培と同じ。
栽培ベッドから排出される養液は、培地を通過してバッグから排水されるわけです。排水された養液は回収されて養液タンクへ戻ります。
回収せずにそのまま廃棄されるかけ流しスタイルもあるのですが、近年では環境汚染防止の観点から、循環して再利用するスタイルが少しずつ増えてきているそうな。
タンク自体を無くしてしまってタンクレス方式ってのもあります。
植物は固形培地の中に根を張って育つ
で、植物の方はというと、バッグの中に詰められた培地の中に根を張って育つわけです。
培地は地面に設置されたり、少し高いベンチ上に設置されたり、作物によって異なります。このあたりは作業する時に楽になるよう工夫したい所ですな。
養液は固形培地の中へと供給される
循環式の水耕栽培と違って、固形培地耕に「養液が流れるベッド」はないです。
養液はタンク内からポンプ、チューブを通り、ドリッパーからチョロチョロ滴る感じで給液されます。なのでチューブを株元の一つ一つに繋げておけば、養液を作物に供給できるというわけです。
チューブではなくてパイプを使ったタイプとか、ドリッパーにも色々と種類があったりします。品目とか培地の種類によって使い分けができるってことですな。
注意点としては、ポンプから遠くなるほど水圧が弱まるので、全てのドリッパーからの供給量が均一となるように調整する必要があるってところ。システムの設計段階から計画的に導入しなきゃいけないわけです。
固形培地耕のメリットとデメリット
養液栽培の他の種類の栽培方法と比較して、固形培地耕のメリット・デメリットは下記。
メリット
- 栽培方法が土耕に近く、手法が応用できる
- 水耕や噴霧耕よりも根が安定するので、比較的大きくなる作物でも栽培できる
デメリット
- 使用した後の培地を消毒したり廃棄するのが大変で、コストもかかる
まとめ
最後までご覧いただき感謝です。
この記事では、「養液栽培とは?」から、「種類」や「メリット・デメリット」を解説してきました。
養液栽培を始める際にはぜひ参考にしてみてください。
ヤサマガでは、水耕栽培に関する知識や技術を発信しております。他の記事もぜひ参考にどうぞ。
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